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KIKI歌野

Author:KIKI歌野
物書き(♀)です。アダルト表現を含む物語もありますのでご注意ください。ふと訪れた方々が楽しんでくださればうれしいです。
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KIKI歌野の、たあいないものがたり
小説を書いています。官能を含む恋愛小説、普通の小説をぼちぼち載せていきます。たぶんまあまあ面白いです(つまんなくても暖かい目で見守ってください・・笑)


  NEW!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 2012年8月
 直己×香枝の最新作『パーフェクト・ビューティー・オブ・ライフ』アップしました。

 ゴメンナサイ、今回は有料コンテンツですが、(1)のみ無料で試し読みしていた
 だけます。

  皆様から寄せられたご感想はコチラ → ★★

 
 2010年11月
 直己×香枝の第四弾『ラヴァーボーイの受難』アップしました。


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  初めてのお方はどうぞ。このブログ内の小説ラインナップが一目でわかります。


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  皆様へのお知らせとかお礼とか言い訳とか、いろいろ書いてあります。


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  キャラなりきりつぶやきもやってますので、小説を気に入ってくださった方なら
  楽しめると思います。ぜひのぞいてくださいね(現在停止中・・・ごめんなさい)



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天敵とあと一秒のキスを(1)
「マーケの仕事ってさ、要するに売れるしくみをつくるってことなんだよ。お前のプランはそのへんのツメが甘いんだよな」
 宇田川直己は、勝ち誇る表情を少しも隠そうともせずに言った。
「別にあんたのレクチャーなんか頼んでないから」
 香枝は内心で歯ぎしりしつつも、平静を装い屈辱を悟られまいとした。たった今社内コンペが終わったばかりの広い会議室からは、ディレクターやマネージャーがぞろぞろと出ていく。
「宇田川、期待してるからなー」
「今回も売上ドーンとあげてくれよな」
 わが社のホープ宇田川に、激励の言葉が次々と飛ぶ。負けた香枝は一顧だにされず、今やゴミと化した自分のプレゼンのファイルを抱え、会議室を出て早足で廊下を歩いた。
 今日も社内コンペで宇田川とガチンコ対決、今日もまた採択されたのは宇田川の企画だった。M社タイアップCMは、この不況下では珍しい大きな仕事だ。今度こそ自分がやりたかったのに、と香枝は悔しさのあまり泣きそうになる。
「今日チームの奴らと飲み会だけど、籾山も来るか?」
 宇田川が背後から声をかけてきた。からかうような響きがある。香枝が行くはずもないことを承知の上での誘いだ。
「結構。先約あるんで」
「あーあ、悔しがっちゃって、お前ってわかりやすいヤツ」
「お前とか呼ぶな。彼女じゃねーし」
 香枝は宇田川の前ではわざと女を捨てた物言いをする。親しいからじゃなく真逆だ。
「ま、修行積めば、そのうちお前の企画も通るって。いつの日かな」
 格好のいい鼻から息を押し出し、バカにしたように笑う。本当に嫌な奴だ。傷口を抉るようなことを平然と口にする。
 香枝は、エレベーターを待つために立ち止まった宇田川を置いて階段を降りた。怒りのあまり呼吸が荒い。考え抜きリサーチし尽くしたのに。徹夜して練り上げた企画だったのに。なぜいつもこの男にだけは勝てないんだろう? 

 香枝の会社は世間では有名なスポーツブランドだ。この不況で予算縮小はしてはいるが広告やイベントの数は多く、マーケティング部の若手は社内コンペでシノギを削る。
 宇田川は香枝より一つ上の27歳で、去年競合他社から転職してきた。実績とセンスを買われての「引き抜き」という噂だった。一目見たときから香枝はその自信過剰な表情を好きになれなかった。短髪でアスリートっぽい体型に押し出しのきく物腰と声、笑顔がチャームポイントだと自覚していそうな笑い方をする男。幾多もの人間を笑顔で踏みつけて、自分だけはのうのうと出世するタイプだ・・と初対面で何もそこまで意地悪く考えたのではないが、数多のコンペで負け続けるうちに、宇田川直己は香枝の「天敵」となった。

「むかつくー、もーやだー。会社辞めてやるー」
 香枝は同期の沙織を会社近くの居酒屋に呼び出して荒れて飲んだ。
「何言ってんの。この不景気に会社辞めてみ? 工場とかのバイトだって面接で落とされる時代なんだよ」
「あたしは大丈夫だもん。頑張って働いてキャリア積んできたもんっ」
 そう、あいつさえいなければ、30前に憧れのイベントマネージャーになることも可能だったのに・・・と考え、香枝は自分に舌打ちをする。
「『だった』とか言ってる時点で気持ち負けてるし」
 焼酎のロックを飲み干すと「ぐふー」と中年オヤジのため息をもらす。
「女子力の低下がとめどないねーアンタ」
 すっぴんで会社に来る女子力ゼロの沙織が冷やかした。
「あれっ、ウワサの天敵がいんじゃん。向こうの席」
 沙織が視線をやった先を振り向くと、仕事以外では1秒でも視界にいれたくない男が4つ向こうのテーブルにいた。同じチームの面々と愉快そうに喋っている。
「うわーマジ勘弁」
 香枝は怖気をふるって前に向き直り、通りかかった店員に「おかわりっ」と声をかけた。
「カノジョ元気いいねー」
「イモ焼酎のボトルあるけど一緒に飲まない?」
 向かいのテーブルの男3人組がこっちを見て笑っていた。どの顔も相当酔っ払っているようだ。
「飲む飲む! ありがとぉ!」
 香枝はマーケ畑だけあってノリが良く、酔っ払うと「人類みなお友達」状態に突入する癖がある。そのオーラは人々に伝播するらしく、結構キレイな顔(と人からは言われる)も手伝って、こうやって見知らぬ男達から酒を奢られた経験は豊富にある。とはいえ芯はガードが固いので、色っぽい雰囲気に持ち込まれることは少ない。
 だがその夜は失敗だった。ただ単に騒ぎたい気分だったのに、男のうちの1人がどうもしつこい。香枝の肩を抱き「口うつしで飲ませて~」と甘えた口調で迫ってくる。
「キャバクラじゃないんだから」
 はねつけても「あー怒ってる顔好みぃ~」と喜ばれる。閉口していると男は素早く「ホテル行かね?」と囁いた。その瞬間だけしらふに戻ったようにマジモードだった。沙織を含む他の3人はバカ話にゲラゲラ笑っており、こっちのことなど見ていない。
「頭冷やしなよ。水とか飲んだら?」
「ねー2人きりになろうよぉー・・・あん?」
 男が突然変な顔をして、香枝と反対方向に顔を向けた。宇田川が男の隣に立っていた。身をかがめて男に耳打ちしている。
「・・・だからさ、気をつけたほーがいいよ」
 きょとんとしている香枝に、宇田川は「早く病院行けよ? 恥ずかしがってる場合じゃねーから」と言った。どういう意味か問う前に、宇田川は背を向けて自分のテーブルに戻ってしまった。男は憑き物が落ちたような顔になり、5分後「電車あるうちに帰る」と言い置いて店を出ていった。
 香枝はしばらく考えていたが席を立ち、宇田川のテーブルまで歩いた。さっきは4,5人いたのに、今は宇田川の隣に、テーブルに突っ伏して撃沈状態の後輩の男が1人いるだけだ。宇田川は横に立った香枝を平静な表情で見上げ「おこんばんは」と言った。
「あんたなんて言ったの? あの人に」
「毛ジラミうつされたって言った」
「は?」
「お前とこないだヤッたら、毛ジラミうつされて迷惑したって言ってやったの」
「どっ・・なっ・・」
 香枝は口を開けたまま絶句した。その顔を宇田川はすごく愉快そうに見つめると、「感謝してる顔じゃねーな。助けてやったのに」と笑った。こんな場面だというのに、確かにこの男の笑顔には破壊力がある、と香枝の酔った頭は一瞬認めた。
「じゃ俺ら帰るワ。こいつ酒に弱すぎでさ」
 宇田川は「眠いッス・・」とムニャムニャ呟く後輩の頭をはたいた。
「もうタクシーに乗せるしかねっか。籾山、荷物持って」
「はい?」
「2人分の荷物持って。俺こいつ1人で精一杯」
 促されるままにビジネスバッグとリュックを持って店の外に出ると、ぐったりした男を抱えた宇田川は「あ」と言った。
「わり、タクシー代貸してよ。ここの勘定払っちゃったから、俺1000円しか持ってねー」
 香枝はムッとしながらも店内に再び入るとバッグを掴み、大はしゃぎしている他の3人をおいて外に出た。宇田川が後輩をタクシーに押し込んでいるところだった。4月にしては生温かい夜だ。排気ガスで充満した大通りに、気の早すぎる初夏の香りが紛れ込んでいる。
「籾山も乗んな」
 宇田川が言った。
「いい。あたし電車で帰るから」
「確か同じ方角だろ。いーからさっさと乗れ」
 有無を言わせないこの物言い。これが自分にはない要素なのだと香枝は悔しくなる。もしこいつが渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で、「はい全員整列!」と通行人に命令を下せば、少なくない人間が従ってしまうだろう。現に今も、香枝はしぶしぶ後部座席に乗り込んでいるのだから。


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