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KIKI歌野

Author:KIKI歌野
物書き(♀)です。アダルト表現を含む物語もありますのでご注意ください。ふと訪れた方々が楽しんでくださればうれしいです。
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KIKI歌野の、たあいないものがたり
小説を書いています。官能を含む恋愛小説、普通の小説をぼちぼち載せていきます。たぶんまあまあ面白いです(つまんなくても暖かい目で見守ってください・・笑)


  NEW!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 2012年8月
 直己×香枝の最新作『パーフェクト・ビューティー・オブ・ライフ』アップしました。

 ゴメンナサイ、今回は有料コンテンツですが、(1)のみ無料で試し読みしていた
 だけます。

  皆様から寄せられたご感想はコチラ → ★★

 
 2010年11月
 直己×香枝の第四弾『ラヴァーボーイの受難』アップしました。


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乙女はコロッケを買いに
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乙女はコロッケを買いに



 隆一さんのためにコロッケを買おうと、滋子はサンダルをつっかけて家の外に出た。
 うだるような夏のアスファルトを夕立が洗いあげた後で、しとどに濡れた生垣が西日に光っている。歩きにくいのは濡れた路面のせいではなく、左のサンダルの内張りが剥がれてめくれあがっているせいだ。きれいなサンダルを買わなければいけない。だって明日は隆一さんに会いにゆくから。
 和泉荘の四畳半の部屋を思い浮かべる滋子の鼻孔を、ふ、ふうと暖かな息が降りる。
「和泉荘っていうよか、ねずみ荘って呼んだほうがええわいや」
 途方に暮れたようなあの笑みを思い出すと、胸の奥に紅いろうそくの火が灯る。よく倒れずに立っていると感心するほどのボロアパートの天井裏からねずみの赤ちゃんの死骸が落ちてきたときは、二人揃って悲鳴をあげたものだった。初めて手を握ったのはあのときだった。

 四つ年上の隆一が、滋子のことを妹のようにしか思っていないことはわかっている。けれど滋子は決して忘れない。昭和二十五年の早春、玄関のたたきに立った「親戚のお兄さん」を、初めて見たときのことを。鴨居に届くほどの丈と、百姓のように無骨な手足と、西洋の細密画のような目鼻立ちを持つ母方のはとこ。無口な唇、憂鬱なまぶた。朴訥な金沢弁を初めて聞いたときのことを、滋子は忘れない。

 隆一は、郷里の金沢で浪人生活を過ごしたのちに東京の大学に進学し、一ヶ月だけ滋子の家に滞在した。滋子の母は陰気な表情の彼を決して好かなかった。
「田舎の子は気心が知れなくて厭だわ。日がな一日、本ばかり読んでにこりともしやしないんだから。光恵さんも相当な吝嗇よね。息子を頼んでおいて菓子折ひとつ持たせやしない」
 彼が初めて笑顔を見せたのは、母親の留守中に滋子が揚げていたコロッケを、横からつまんだときのことだ。齧った一口を呑み込んで「うまい」と褒めた拍子に、無垢な笑みが唇に落ちた。

 彼が和泉荘に移ってからは、滋子は両親に内緒でアパートに押しかけるようになった。部屋の掃除をしたり、惣菜を持参したり、理由をつけては会いにゆく心も知らず、夕闇の窓辺に肘をつき物思う隆一の横顔は、他者の存在を遮断している。彼には心に想う女性があるのだろうか。もし隆一さんと誰かの心が通じたら、自分は二度とアパートにゆけなくなってしまうかもしれない。そうしょぼくれて帰途につくのが常なのに、滋子はもう長いこと和泉荘に通い続けている。

 私はいくつ。まだ十九。もう十九。いつお嫁に行ってもおかしくない。鬼も十八番茶も出花というけれど、私の人生の花は開くのだろうか。

 滋子は弁当屋のガラスドアの前に立ったが、店には入らずに小路を左に折れ、駅の反対側に向かった。やっぱり肉屋のコロッケのほうが良い。トゲトゲした衣の熱々のコロッケ。お手製のコロッケを持ってゆければ良いけれど、今はガスコンロが故障している。何度スイッチをひねってもだめだからしょうがない。
 高校生のころ、クラスメートと一緒に買い食いしたコロッケを思い出す。土手に座ってほおばった熱々のコロッケの美味しかったこと。あのクラスメートの名前は何だったろう。柔らかな茶色い髪を指先にからませながら話をしていた。あきこ。違うな。ゆかり、かなこ、よしえ。
 そう、よしえ・・・と滋子は華奢な顎をあげた。だが何か違うような気がする。よしえというのは、たぶん違う子の名前だ。郷愁をおぼえる名前なのに、誰なのか思い出せない。
 口のなかで、よしえ、よしえ、と熱心に転がしていた滋子の足が立ち止まった。あれ、私は何をしに外に出たのだろうか、と首を傾げて考える。考え事に夢中になると大切な用件を忘れてしまうこの癖を、隆一は「だら」と言って-----金沢弁で馬鹿という意味だ-----からかいの種にする。滋子は自慢の鼻筋が彼に見えるように横を向き、ふくれてみせる。この顔が可愛いげんと彼は言ってくれたのだ。

「滋子ちゃんを見とると肩の力が抜けるわいや。俺の家ってああやろう。親父は家財食いつぶすだけの能無しで妾が二人もおるがよ。お袋は俺にはまっとうな人間になってほしいって、そればっかりや。そのくせ目を光らせて財産を抱えこんどる。人間ってな、歳をとればとるほど腐臭が滲みだしてくるげんよ。俺は逃れたくて東京に来た。でもここにも馴染めん。滋子ちゃんにはわからん話やろうが」

 暗く湿った笑い声を耳にすると、滋子の心臓を蟲が食い荒らす。
 一人の男性のことしか頭にない滋子は、いつも上の空だ。彼と過ごす時間にだけ私は真に生きているのだと思いつめ、胸の真ん中で両手を握り締めて前かがみに歩く。眼は空(くう)を見つめている。

「あの、大丈夫?」
 だしぬけに声をかけられ、驚いて立ち止まる。横手を見ると、見知らぬ中年の女が怪しむような、心配そうな顔で立っていた。
「そこ車道ですからね。危ないですよ。ちゃんと歩道を歩いたほうがいいですよ。ね」
「あ、はい。どうも、すみません」
「どちらにいらっしゃるの。よければお送りしましょうか」
「いえ結構です。友達、友達のところに、いくんです」
「おうちはどこなんですか?」

 女性は幼児に対するような作り笑いを浮かべていた。初対面なのにこの馴れ馴れしさはどういうことだろう。きついパーマのかかった女の髪から視線をそらし、滋子は何も答えずに早足で歩き出した。闇雲に歩き続け角を曲がり、女が追ってこないことを確かめると、安堵の息をついた。まったくこのサンダルときたら歩きづらくて、と思ったとたん外出の目的が蘇った。サンダルを買おうとしていたのだ。サンダルはどこに売っているんだっけ。駅前のあすこの店の二階に行けばきっとあるけれど、駅はどこだろう。私は今どこに立っているんだろう。
 滋子は目玉を動かし、民家のコンクリート塀、整骨院の看板と、順繰りに視線を移した。見覚えのあるものが何もない。後ろを振り向き、通った道を全く憶えていないことがわかると、額の生え際から流れ込んだ冷気が背中の汗のぬくみを凍らせた。
 私はまた、迷子になってしまった。
 滋子はその場にしゃがみこんだ。早くおうちに帰らなきゃ。遅くなる前に戻らないと母にまた叱られる。父だって雷を落とすに違いない。二人とも本当は薄々気づいているのだ。滋子が隆一のアパートに通いつめていることを。でも隆一さんの心を貰うまでは諦められない。生まれて初めてなんだもの。臓腑が焼けるほどに男の人を欲したのは。

 涙の滲んだ目を開けると、二メートルほど先の電柱に貼られた白い紙に視線が吸い寄せられた。濡れた白地に「間宮家」と黒字で記されている。お葬式があるのだ。これは隆一の名字だ。厭な偶然だ・・。
 滋子は細くばらけた髪の根元に両の指を埋め、頭皮を鷲づかみにした。十本の指先にざあざあと血が逆巻く。何か忌まわしいことを思い出しそうな気がした。黒い和服の女の人たち。陰気な男の人たち。北陸の鈍色(にびいろ)の空から、水煙のような霧雨が舞い落ちる。

 誰かの手が右肩に触れた。
「滋子ちゃん?」
 声の主をみとめたとたん、滋子の痩せた胸が上下した。鼻の奥が火箸のように熱くなり、涙が溢れだした。
「隆一さん」
「心配したよ。滋子ちゃんがいなくなったって知らせを受けて、あちこち捜したんだよ」
「わた、私、迷子になったの。私、隆一さんに」
 ぶつ切りになる言葉がもどかしく、隆一の腕にしがみついた。
「立てる? しっかりつかまって」
 隆一に抱えられ、滋子はようやく立ち上がった。体の節々に鈍痛がある。だが思わぬところで会えた歓びが頬に笑みを生ませ、今しがたの恐怖を振り切りたくて饒舌になった。
「私、私ね、隆一さんに、コロッケを買おうと思ったの。そしたら知らないところに来てしまったの。知らないおばさんに声をかけられて、怖くなって」
「コロッケ? 僕に?」
「だって好きでしょう。明日持って行くつもりで」
「そう。ありがとう。嬉しいな。でも明日来るんだったら、明日買ったほうが良いんじゃないかなあ。せっかくのコロッケが古くなっちゃうよ」
「そうか。そうよね」
「さ、帰ろうね。滋子ちゃんの家はすぐそこだよ」

 隆一に肩を抱かれ、滋子は夢心地でもたれかかった。歩き出すと、隆一は滋子にではなく、ひとりで会話を始めた。滋子さん、見つけましたよ。すぐ近所におられました。ええ、お怪我もないし無事ですよ。
シャツの胸ポケットに小さな機械のようなものをしまいこむと、隆一は滋子を二階建ての家に連れていった。至福が嵩じ過ぎたのか滋子は急激に眠い。くすんだ桃色の外壁を見上げながら、隆一のシャツを指に握った。
「ここはどこ? 私、家に帰りたい」
「そうだね。でもその前にちょっと寄ろうね。僕が一緒だから怖くないだろう」
 滋子は頷いた。玄関の前に立つと女の人が飛び出してきた。五十歳くらいの、顔色の悪い女の人だった。
「ああ良かった。警察に知らせなきゃって思ってたのよ。ありがとうございます、田辺さん」
 この人は誰なのと、隆一に聞きたかったが、緞帳がひかれたような眠気に勝てそうもない。床が敷かれていたので、滋子は横たわって目を閉じた。軽い布団が体の上にかけられる。男の人の声が「おい、よしえ」と不機嫌に呟いたのが聞こえた。よしえ。誰の名前だったろう。どこかで聞いたような、気がする。
「まったく人騒がせだよなあ。ちょっと目を離すとすぐどっかに行っちゃうんだから。もうへとへとだよ俺は」
「それは言いっこなし。やっとホームに空きができて、明日入居できるんじゃないの。ごめんなさいねえ田辺さん。こんなの介護士の仕事じゃないのに」
「いえ、いいんですよ」
「ほんとにもう、お父さんが死んでから、どんどんおかしくなっちゃって。まだそんな歳じゃないのにねえ。でも明日からガスの元栓止めたり、冷蔵庫に鍵かけたり、真夜中に起されたりしなくて済むのね。お母さんには悪いけど、久しぶりでよく眠れると思うと嬉しいの」
「わかりますよ。ご家族にとっては大変なことですからね」
「そういえばお母さんったら、田辺さんのことまだ隆一さんって呼んでるの?」
「ええ、その方って滋子さんの昔の恋人でしたっけ?」
「親戚にそんな名前の人がいたらしいわ。でもその人ね、若い頃に自殺したらしいんですよ」
「自殺、ですか」
「よしえ。そういう話を軽々しくするなよ」
「いいじゃないのよ。昔の話なんだから。でも複雑よねえ。娘の私のことだって誰だかわかんなくなるのに、田辺さんと会うときだけは、にこにこなのよ。憎たらしいくらいだわ」
「明日から会えなくなっちゃうのが淋しいですよ。『滋子ちゃん』って呼ぶのが癖になっちゃいましたしね」

 滋子は夢うつつに聞いていた。彼らの会話は滋子の心の表面をつるりと滑り落ちてゆき、彼女の平安を乱すことはなかった。
 明日は揚げたてのコロッケを持って、隆一さんのところにゆくのだ。おむすびも握っていこう。
 間宮滋子。いつかそうなれたらいい。過ぎた望みかもしれないけど、可能性は決して零じゃない。明日に何が起こるかなんて誰にもわかりゃしないんだから。
 滋子は皺深い口もとをゆるませた。井戸の底のような深い眠りが、やがて到来した。


(おわり)

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