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KIKI歌野

Author:KIKI歌野
物書き(♀)です。アダルト表現を含む物語もありますのでご注意ください。ふと訪れた方々が楽しんでくださればうれしいです。
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KIKI歌野の、たあいないものがたり
小説を書いています。官能を含む恋愛小説、普通の小説をぼちぼち載せていきます。たぶんまあまあ面白いです(つまんなくても暖かい目で見守ってください・・笑)


  NEW!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 2012年8月
 直己×香枝の最新作『パーフェクト・ビューティー・オブ・ライフ』アップしました。

 ゴメンナサイ、今回は有料コンテンツですが、(1)のみ無料で試し読みしていた
 だけます。

  皆様から寄せられたご感想はコチラ → ★★

 
 2010年11月
 直己×香枝の第四弾『ラヴァーボーイの受難』アップしました。


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  皆様へのお知らせとかお礼とか言い訳とか、いろいろ書いてあります。


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  キャラなりきりつぶやきもやってますので、小説を気に入ってくださった方なら
  楽しめると思います。ぜひのぞいてくださいね(現在停止中・・・ごめんなさい)



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プリンキピア・マテマティカ (1)


プリンキピア・マテマティカ(1)



 悠太が青葉台学園高等部の正門の内側に足を踏み入れたとき、数名の生徒が立ち止って息を呑んだ。
「クラケン?」
「まさか」
「なにあいつ。似てない?」
「確かに、かなりソックリ」
 クラケンって誰だろうと細い眼を瞬かせつつ、悠太は校舎内に入った。この高校では上履きに履き替える必要はないが、運動靴やスニーカーでの校舎内立ち入りは禁じられているため、悠太は今日慣れないローファーを履いている。足を入れた瞬間からもう脱ぎたくなる靴で歩く苦痛といったら、何に例えようもない。そもそもこの制服が無理だ。坊主頭が少し伸びたダサい髪型に真っ黒な顔。見た目通りに田舎育ちの自分と、金のエンブレムを胸に光らせたこの格調高いブレザーは、笑えるほどチグハグな印象を与えるに違いない。
 何度目かのため息をつきながら階段をのぼり、二階の職員室に向かう。高い天井や磨き込まれた壁や床は、学校というより教会や聖堂のような雰囲気だ。選ばれた家柄の子女しか入学を許されないこの東京の有名私立学園は、本来なら悠太には無縁の場所だったのに、高校生活も残りあと一年という今、転入する羽目になった。見るからに毛並みがよさそうな生徒達の幾人かが、悠太を見てギョッとした顔になる。踊り場ですれ違った男子生徒が「え?」と声をあげ、だしぬけに悠太の腕を掴んだ。
「なんだお前。クラシマの親戚かなんか?」
「え? いや、違う、けど」 
 悠太は面喰って答えた。クラシマという名字の親戚はいない。もっとも父方の親戚については何一つ知らないのだが。
「マジで? クラケンに良く似てるけど。お前転入生だよな?」
 初対面で「お前」はないよなと思ったが、どこか威圧感のある眼に気圧されて悠太は頷いた。この学校には異質な存在だと一目でわかる男だ。ネクタイは緩め放題、はだけたシャツの下に黒いTシャツを着ている。足元を見れば深紅のスニーカーだ。
「名前は? あっと俺は宇田川。宇田川直己。三年」
「海棠悠太。三年」
「海棠? おいおい海棠家かよ。これはオミソレ。職員室行くの? ついてきな」
 宇田川の顔には明白な揶揄があった。「名家にもこんな庶民系がいるわけね」と言っているように見えるのは僻みだろうか。
「で何組に転入なの。海棠クン」
「A組だけど」
「ははっ!」
 宇田川が鋭く笑った。「そりゃいい。オニクラと同じクラスとは見ものだな」
「オニクラ?」
「クラケンのイトコで倉嶋志保子っていう女だよ。鬼の生徒会長なんでオニクラって呼ばれてる。超こえーから気をつけな」
「あの、で、クラケンっていうのは」
「倉嶋謙二。俺と同じクラスだったけど、五か月前に突然死したヤツ。」
「突然死?」
「インフルエンザで急性脳症起こしてポックリ。死んだときは相当話題になったな。頭は絶望的に悪かったけど、オニクラの金魚のフンってだけで有名なヤツだったんで」
 宇田川は立ち止まると、ズボンのポケットに両手を突っ込み、悠太の顔を見つめた。
「オニクラがお前見てどんな顔したか後で聞かせろよ。俺はC組にいっからさ」
 こっちが戸惑うほど人懐っこい笑顔を浴びせると、宇田川は背を向けて歩き出した。後ろ姿がみるみる遠ざかる。気がつけば職員室の前だったが、無性に帰りたくなった。ただでさえ気が重いのに、死んだ生徒に似ていると言われて喜べるはずもない。しかもオニクラなどと呼ばれる女子が同じクラスにいるらしい。担当教諭に連れられて教室に着く頃には、悠太は視線を水平の高さに保つことすら困難になっていた。
「よろしくお願いします」
 黒板の前で呟いて頭を下げて上げると、生徒全員の眼と口が開かれていた。悠太の人生でこれほどの注視、いや凝視を浴びたことは一度もない。誰かが「クラケン」と口にするだろうと思ったがそういう事はなく、生徒達の視線がある一点に、窓側の真ん中あたりの席にさわさわと移動した。一人だけ不動の眼をした女子がそこにいた。日本人離れした色白の肌を持つその女子は、涼しげな表情で悠太の顔を見つめていた。あれがオニクラだ、と悠太は直感した。

 一時間目の国語が終わると、数人の生徒が悠太の周囲に集まった。
「ねえ、倉嶋家とは何か関係あるの? 血のつながりとかさ」
「海棠くんってあの海棠家だよね? なんで東京じゃなくて群馬に住んでたの?」
 彼らは横目でドアのほうをチラチラと見ている。さきほど教室の外に出ていった倉嶋志保子が戻ってこないか気にしているのだろうと悠太は推測した。倉嶋という名の親戚はいないと答えてから、二番目の質問の答えを準備しておいた通りに言った。
「名前は海棠だけど、俺は本家じゃないんで・・家庭の事情で本家と同居することになったけど」
 まるきり嘘ではないが、百パーセント本当でもない。
 好奇の目から逃れるため、悠太は二時間目が終わると教室の外に出た。倉嶋志保子は誰かとおしゃべりをするでもなく、席で本を読んでいる。バレリーナのように伸びた背筋に、品よく整った横顔。おとなしやかな印象なのになぜ「オニクラ」なのだろうか。
 廊下を歩いてなんとなくC組の前まで来ると、教室の窓からニュッと突き出た顔があった。宇田川だ。
「おー海棠クン。オニクラはどーよ。腰でも抜かした?」
「いや別に・・。普通な感じだったけど」
「ま、顔には出さねーか。ハンパねえ気どり屋だからな」
「倉嶋さんのこと、そーゆー風に言うの直己だけだよねー」
 宇田川を囲んでいる三人の女子がクスクス笑った。どの顔も人形みたいに可愛らしい。
「なーに言って。お前らだって陰でオニクラって呼んでるくせに」
「だって怖いんだもんあの人。でも直己は生徒会副会長までやってたのに」
「副会長?」
 悠太は宇田川の顔をまじまじと見た。
「そ。冗談で祭り上げられてさー、一期だけ副会長やったんだけどオニクラと連日大ゲンカよ。俺トイレで泣いたもん」
 女子がどっと笑う。なるほど、この男はモテるんだろうな、と悠太は素直に感心する。
 宇田川は長い脚で窓を跨ぎ、廊下に降り立った。「行こーぜ」と言いA組のほうに足を向ける。悠太は「?」と思いながら宇田川の後ろを歩いた。宇田川がA組のドアを開けると、室内のほとんどすべての眼が注がれた。
「何しに来たんだよ」
「クラス間違えたんじゃないの?」
 何人か立ち上がったが、宇田川は構わずにずかずかと入り込み、倉嶋の前に立つと「オハヨーさん会長」と言った。
「おはよう、宇田川くん」
 倉嶋は本から眼を上げ、静かに挨拶を返した。
「どんな気分っすか今。クラケンが生き返ったみたいで嬉しい?」
「わざわざそれを言いに来たの? 相変わらず物好きなのね」
 倉嶋は口の端をあげて微笑み、背後の悠太を見つめた。視線が絡んだ瞬間、なぜか全身に鳥肌がたった。美しい眼の奥底にあるもの。普通の人間には持ち得ない極度に発達した智の塊のようなものを、本能的に察知したのかもしれない。
「海棠くん」
 倉嶋は言った。
「もう話は聞いているんでしょう。好奇心の的になって不愉快でしょうけど、気にする必要はないわ。どんなニュースもいずれ忘れ去られるものだから」
 悠太は驚いた。これほどちゃんとした女言葉を話す同い年の女子を、生まれて初めて見たからだ。
「へえ、じゃあ会長サンはとっくに忘れたんだろーな。最愛のイトコのこと」
 斜め後ろから見る宇田川の頬は笑っているが、口調はひどく挑発的だ。
「私にとっては『ニュース』ではないから、あなたが彼を忘れない以上に忘れない。こういう答えでいいのかしら」
 倉嶋は薄く笑った。
「もう自分の教室に戻りなさい。授業が始まるから」
 教師のような命令を下すと、微笑んだまま教室を見渡した。
「これはただの会話。見せものではないのよ」
 柔らかな声なのに教室の隅にまで届く。クラスメートは次々に眼を伏せ、教科書やノートを机の上に出し始めた。宇田川は鼻を鳴らし「じゃな」と悠太に笑いかけると、教室を出ていった。


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