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KIKI歌野

Author:KIKI歌野
物書き(♀)です。アダルト表現を含む物語もありますのでご注意ください。ふと訪れた方々が楽しんでくださればうれしいです。
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KIKI歌野の、たあいないものがたり
小説を書いています。官能を含む恋愛小説、普通の小説をぼちぼち載せていきます。たぶんまあまあ面白いです(つまんなくても暖かい目で見守ってください・・笑)


  NEW!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 2012年8月
 直己×香枝の最新作『パーフェクト・ビューティー・オブ・ライフ』アップしました。

 ゴメンナサイ、今回は有料コンテンツですが、(1)のみ無料で試し読みしていた
 だけます。

  皆様から寄せられたご感想はコチラ → ★★

 
 2010年11月
 直己×香枝の第四弾『ラヴァーボーイの受難』アップしました。


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  初めてのお方はどうぞ。このブログ内の小説ラインナップが一目でわかります。


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  小説のキャラ紹介です。「100の質問!」コーナーもあります。お時間のある方はぜひ


  KIKI歌野の日記
  皆様へのお知らせとかお礼とか言い訳とか、いろいろ書いてあります。


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  キャラなりきりつぶやきもやってますので、小説を気に入ってくださった方なら
  楽しめると思います。ぜひのぞいてくださいね(現在停止中・・・ごめんなさい)



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プリンキピア・マテマティカ (6)


 宇田川は会が終了する寸前に立ち上がり、一足先に帰った。女からメールが入ったので渋谷に行くと軽い調子で言ったが、本当かどうかはわからない。
 CPMという会は数論を軸にした丁々発止の頭脳合戦というべきもので、一人がAと言えばBが先だと突っ込みが入り、定石は捨てろと誰かが言い、すぐ瓦解する仮定をたてるべきじゃないと他の誰かが断じるといった具合で、最も広い知識と大きな発言力を持つのがヒロアキ、二番目が最年少の倉嶋だった。聞き役以外にはなれない悠太も日常から逸脱した知能の矢のような応酬を夢中で追っていた。午後五時に会は終了し、ヒロアキ以外のメンバーは「また再来週に」と言い、雑談を交わすこともなく帰っていった。悠太も腰をあげ、ヒロアキや倉島と一緒にリビングルームを出た。
「志保子、書庫の鍵借りるよ。見たい文献があるから」
 ヒロアキが言った。
「ヒロさん、夕飯を食べていったら? 母もあと一時間足らずで帰ってくるでしょうから」
「うん、そうするよ」
 この二人はどういう関係なんだろうという内心を隠し、「じゃ俺はこれで」と軽く頭をさげると、ヒロアキが「ちょっと待って」と引き留めた。
「まだ紹介らしい紹介をしてもらってないよ。海棠くんは志保子の彼氏?」
「わかってて言ってるのね。彼はクラスメートよ」
 笑みを含んだ倉嶋が答え、悠太のほうを見た。
「こちらは私の叔父。母の末の弟で、T大学で数理科学の講師をしているの」
「叔父さん・・」
 ずいぶん若い叔父だと驚きながら、悠太は整った顔を見た。倉島や悠太とせいぜい十歳程度しか違わないだろう。それにどう見ても白人の血が混じった顔立ちをしている・・という思考を容易に読まれたらしく、ヒロアキは質問に先んじて説明した。
「僕の母は、つまり志保子の祖母はアメリカ人なんだよ。だったというべきかな。もう亡くなっているから。志保子の外見にもその血は現れてると思うけど、気づかなかった?」
 そう言われれば確かに倉嶋の骨格や白すぎる肌は日本人離れしているが、白人の遺伝子のなせる業だとは考えもつかなかった。
「じゃ僕はしばらく書庫に籠るけどごゆっくり。よかったら海棠くんも夕飯を一緒に・・・ああわかった! 君が志保子のナイトだね。朝の電車の」
「ナイト?」
「こないだ志保子から聞いたんだよ。毎朝守ってくれるナイトが現れたって」
「はあ・・」
「脚色しすぎよ。私はそんな言い方はしなかったわ」
 倉嶋はこめかみに手のひらをあて、少し気だるげに笑った。
「そのお礼というわけでもないけれど、海棠くんも夕飯をうちで食べていって」
「え? いや、でも」
「ヒロさん、海棠くんの家に電話をしてくれる? 彼を食事に招待したいと。電話番号は・・」
 倉嶋が海棠家の電話番号を諳んじたので、悠太は眼を丸くした。
「なんで知ってるの?」
「名簿に載っていたもの」
「僕の姪は大抵の数列なら一目で覚えちゃうんだよ。そうだ志保子、氷を額に当てときなさい。熱があがっただろうから。ちょっと待って」
 ヒロアキは踵を返してキッチンに消え、タオルに包んだ氷嚢のようなものを手に持って戻ってきた。礼を言って受け取った倉嶋は階段を昇り、悠太を二階の一室に招き入れた。そこが倉嶋の自室だと理解したとたん、悠太の心臓が早打ちを始めた
 壁紙もカーテンもソファーもベッドも、全て青と白で構成された広々とした部屋だ。壁の一面が床から天井まで書棚になっており、圧倒的な冊数の書籍が上下左右に陳列している。悠太をソファーに座らせると、倉嶋は書棚から取り出した薄手のアルバムをテーブルに広げた。
「健二の写真を見たことはある?」
「いや・・ないけど」
「これが彼よ」
 倉嶋が指差したのは、制服姿の倉嶋と男子生徒が青葉台学園高等部の校門の前に並んで立っている写真だった。入学時に撮影したものなのだろう、「平成××度 入学式会場」という白い垂れ幕が片隅に映っている。今より少し幼い印象の倉嶋の横に立ったクラケンの顔に、悠太は釘づけになった。似ている。まるで異次元のパラレルワールドで生きている、もう一人の自分のように。
「驚いた?」
 倉嶋の問いに悠太は頷いた。全身に鳥肌が立つのを抑えることができない。顔の輪郭、目鼻立ち。血のつながりを持たない人間がここまで似ることがあるのだろうか。
「健二は落ち着きのない子だった・・。こうやってきちんと立たせるのは一分が限界だったわ」
 悠太の横に座った倉嶋は額に華奢な指をあて、密生した睫毛をこころもち伏せた。
「物事に集中するのも苦手で、私は時間の許す限り彼の勉強を見たけれど、かろうじて進級できる程度の成績を取らせるのが精一杯だった。十七歳になってもテレビのアクションヒーローに子供向けのアニメーションが好きで、いい意味でも悪い意味でも、とても子供っぽかったの」
 倉嶋は顔をあげ、悠太を見た。
「海棠くん。今は不愉快なことが多くても、そのうち健二のことは誰も口に出さなくなるわ」
「・・なんで?」
「あなたのほうが格段に優れていると皆が認めるようになるから。卒業を待たずに主軸がすり替わるはずよ。海棠悠太に似ていたクラケンという風に・・」
 倉嶋は言葉を切った。アルバムを手に取って立ち上がった拍子に体が少し前後にぶれたが、ゆっくりと歩き出し、書棚にアルバムをしまった。
「倉嶋」
 悠太は立ち上がった。「さん」を省略したことに気付いたが、構わずに傍に寄った。
「大丈夫よ」
 制するように微笑んだ倉嶋は、理知の結晶のような瞳で悠太を捕らえた。彼女は一体何を見ているのだろう、と悠太は背筋を波立たせながら見つめ返した。悠太を見ているのか。それともこの顔を持っていたクラケンを透かし見ているのだろうか。
「クラケンは・・・大好きだったって聞いた。倉嶋を」
 悠太は掠れ声で言った。
「そうね。子供の頃、私をお嫁さんにすると言っていたわ。私は八歳から十三歳までボストンで教育を受けて帰国したのだけど、五年ぶりに会った彼は八歳の頃と同じことを同じように言っていた。高校生になってもまだ時々は」
「・・・」
「宇田川くんにキスをされたとき------この話は彼から聞いた?」
 悠太は頷いた。
「健二はひどく泣いたわ。宇田川くんが怒って出ていったあと、自分にもキスをして欲しいと泣きながら言ったの。あいつとしたのにどうして自分にはしてくれないのって、殴られて腫れた顔で・・・」
 倉嶋は眼を閉じた。体がぐらついたので悠太はとっさに二の腕を支えた。
「本当はわかってる。志保子はきっと百年待ったって俺のものにはなってくれない。でも他の男のものになるのを見るくらいなら、その前に死んでやるって言ったわ。もちろんその場の激情で口走った言葉に過ぎない。でもその二日後に彼は亡くなった。葬儀の間中、私には悪い冗談としか思えなかった。健二はきっと起き上がって舌を出して笑うつもりだと、本気で信じていたの。そんな自分に笑ってしまったけど・・・でも彼は本当に、私の関心をひくための悪ふざけが好きな子だったから」
 倉嶋は温度の高い吐息をついた。
「少し寄りかからせて・・・嫌でなければ」
 倉嶋は悠太に寄り添った。嘘だろ、と悠太は内心で呟いた。服越しに柔らかな肢体の感触が伝わってくる。今にも心臓が破裂して壊れてしまいそうだ。
「いとことして、いいえ、むしろ弟のように彼を愛してた。異性だと思ったことはなかったわ。でも」
 青白い手が悠太の頬に伸びる。体内に火が灯っているかのように熱い。
「私は、キスをしてあげるべきだったのかしら」
 倉嶋は独り言のように言い、ため息の中に密やかな笑いを混ぜた。
「あなたに聞いたって仕方ない・・・そんなことはわかっているのに」
 似ているからだ、と悠太は唇を引き結んだ。自分の顔がこれほどクラケンに似ていなければ、倉嶋はこんな心情を吐露したりしない。「顔が似ているくらい、どうということもないのに」と、美術室で彼女は涼やかに言ってのけたのに。
「俺は・・クラケンじゃない。その通りだよ。聞かれてもわからない」
 倉嶋の深い瞳に小波がよぎる。悠太は自分の突き放した口調を後悔したが、その一方で傷つき、真意の見えない彼女に苛立ってもいた。なのに体を離せない。倉嶋の二の腕を離し、さんざん迷ってから、寄りかかってくる体に両の腕を回して抱き締めた。腕が余るほど細い体は少しも抵抗を見せなかった。控えめな乳房の膨らみの感触を胸で受け止める。悠太は倉嶋がしたように、彼女の熱い頬に手を当てた。
「冷たくて、気持ちいい・・」
 倉嶋が言い終わらないうちに、顔を近づけてキスをした。倉嶋は眼を閉じ、無粋に押し付けるだけの唇を受け入れた。
 突然の死は周囲の人間に予期せぬ罪悪感を運んでくる。幾ら後悔しても後の祭りとわかっていても、尽きぬ問いは胸の内で繰り返される。倉嶋も、多分宇田川もそうなのかもしれない。
「唇も冷たい」
 倉嶋は間近で微笑んだ。悠太は美しい少女に微笑み返すことはできなかった。問いが喉から飛び出しそうになる。キスを拒まないのは、クラケンへの罪滅ぼしのためだろうと。
 悠太は幾度も彼女にキスをした。倉嶋がそれに応えるたびに沈鬱さがその重さを増していく。体の興奮だけが独り歩きをするのを、ぽつんと見つめている自分がいる。
 宇田川の顔が頭に浮かんだ。莫大な罪悪感と、かすかな優越感。やっとの思いで唇を離しながら、倉嶋への憧憬の芽が勢いよく吹き出し、憧憬とは別の枝葉が伸長しようとしているのを、悠太ははっきりと意識していた。




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