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KIKI歌野

Author:KIKI歌野
物書き(♀)です。アダルト表現を含む物語もありますのでご注意ください。ふと訪れた方々が楽しんでくださればうれしいです。
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KIKI歌野の、たあいないものがたり
小説を書いています。官能を含む恋愛小説、普通の小説をぼちぼち載せていきます。たぶんまあまあ面白いです(つまんなくても暖かい目で見守ってください・・笑)


  NEW!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 2012年8月
 直己×香枝の最新作『パーフェクト・ビューティー・オブ・ライフ』アップしました。

 ゴメンナサイ、今回は有料コンテンツですが、(1)のみ無料で試し読みしていた
 だけます。

  皆様から寄せられたご感想はコチラ → ★★

 
 2010年11月
 直己×香枝の第四弾『ラヴァーボーイの受難』アップしました。


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  楽しめると思います。ぜひのぞいてくださいね(現在停止中・・・ごめんなさい)



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グリーン・グリーン(1)
「ちょっ・・ダメだよ。こんなとこでマズイって」
「誰も入ってこねっしょ。もう夜だし」
「というかモラルの問題で・・んっ・・」
 宇田川直己が密やかな会話を交わしている相手は、同僚の籾山香枝だ。時刻は夜九時半。シューズやアパレルを山ほど積んだスチールラックが連なる社内倉庫の一角でキスを交わし、彼女の体を撫でまわしている。
「ね、そろそろ仕事終了?」
 香枝は唇を離し、直己の手を牽制するように体をねじった。
「それ聞こうと思って追いかけてきたのにもー・・・」
「メールで聞きゃいいじゃん。こんなトコまで来っからこんな目に会うんだよ」
 直己は笑い、ブラウスの上から乳房に触れた。親指の爪で胸の頂きをカリカリ掻くと香枝はビクッと震えたが、両手で直己の手を押し戻した。
「ダメだってば。月曜朝イチの資料まだ作ってないんだから」
「あと何分かかんの」
「一時間」
「おせーよ。三十分」
「なに交渉してんの? じゃ四十五分」
「こっちはもう仕事終了。お前が終わり次第駅で集合な」
 交際歴五週間の二人の関係はまだ周囲には非公開なので、連れ立ってオフィスを出ることはない。香枝は振り切るように直己の腕から逃れた。上気した頬が果実のように瑞々しい。
「じゃ後で。先帰っちゃやだよ?」
「帰るどころか倉庫からも出れません」
 笑いながら自分の股間を一瞥する。香枝は照れ臭げな笑みをチラッと返しドアに向かった。パンツを好む彼女だが、今日は薄紫色のふわりとしたスカートを履いている。香枝が出ていくと直己は壁にもたれて大きな息を吐いた。強張ったものを握り「はい、どうどう」とおどけてみても興奮は治まらない。何しろ二週間もご無沙汰なのだ。先月マネージャーに昇格してからというもの多忙を極め、ここ一週間の平均睡眠時間は三時間にも満たない。待ち望んだ金曜の夜だ。今日は香枝とセックスをして泥のように眠りたかった。
(俺らってマジでつきあってるんだよなぁ)
 ラック上段のサンプル品を取り上げながらふと考える。
仕事に関しては最強運の保持者、常に大吉の直己だが、ここ一、二年の異性運はたまに凶、良くて中吉が関の山だった。殺人的に多忙なせいで誰と知り合っても刹那で終わってしまうのだ。下半身の欲求が決壊しそうになると、携帯のアドレス帳から適当な女子を選んで飲みに誘うのだが、電話口で罵倒されることなどしょっちゅうだった。
「二ヶ月もほっといて彼氏ヅラとかしないでよ!」
 最後に会ったのは二ヶ月前かと、怒鳴られて初めて思い出す。あたしと付き合うつもりなら一日一回はメールしろと要求したコもいたが、その後連絡を取っていない。要するに凶をひいたのは直己ではなく、直己と関わった女達なのかもしれない。

 籾山香枝に初めて会ったのは約一年前、直己が今の会社、大手スポーツブランドに転職した初日のことだ。ディレクターにフロア中を引きまわされ、挨拶をさせられたメンバーのうち、特に印象に残ったのが彼女だった。
「よろしくお願いします」
 笑顔で頭を下げた彼女に「よろしくっす」と応対したところ、反感を買ったのが一瞬の視線で伝わった。言葉にすれば「このデカい態度は何?」だと察するが、たとえ態度がデカくても、直己を見る初対面の女の視線はわりあい好意的なのが普通だ。勝気な眼に涼しい顔立ちが好みだったこともあり、彼女の存在は意識の片隅に留まるようになった。
香枝が有能なスタッフであり、長時間労働を厭わないワーカーホリックであることはすぐに知れた。形のいい脚をパンツに包み、敏捷な大股で歩く。スリムだがほどよい丸みのある身体つき。特に背中から尻にかけての曲線はセクシーと呼んで差し支えない。要するに無性にお近づきになりたいタイプなのだが、近づこうにも近づけなかった。彼女からオニのように嫌われてしまったためである。

 入社して一週間後、直己の歓迎会を兼ねた飲み会が開かれた夜のことだ。シニアマネージャーの行きつけだというその小料理屋は、初老の夫婦二人だけで切り盛りしており、どう見ても人手が足りなかった。香枝は腰軽く立ち上がり、「お待ちどー!」と飲み物を運んで手渡しながら座を盛り上げていた。明朗活発な彼女は、そこにいるだけで場のワット数が三倍は上がる重宝な存在だった。
「ねーカラオケいこーよカラオケ」
 店を出て夜の街をぞろぞろ歩いていると、彼女の陽気な声が背後で聞こえた。
「やですよー。籾山さんマイク握りっぱなしなんだもん」
「そう言うなって。籾山には俺の違うトコ握らせといてやっから」
「あたしの握力ハンパないっすよー」と香枝はおっさん社員の冗談を軽く流し、上機嫌で酔っ払っていた。
「並木もカラオケいくでしょ? ねーってば」
 後ろから腕を掴まれ振り向かされた。人懐っこい笑顔に見上げられ、思わずドキリとした。「並木」はマーケの若手で、後ろ姿が直己と似ているらしく何度か間違えられたことがある。香枝は眼をあどけなく見開き、「ごめん」と恥ずかしげに笑って手を離した。
(こりゃ可愛い)
 諧謔的表現なら「ウッ」と両手で胸を押さえて倒れるところだ。だが香枝の笑顔はすぐに儀礼的なものに変わった。
「えーと・・宇田川さんも行く? カラオケ」
「や、俺会社に戻るつもりなんで」
 直己はにべもなく断った。カラオケが嫌いということもあるが、いかにも義理で誘ったような口調がシャクにさわったせいでもある。
「会社? なんで?」
「調べもん思いついちゃって。再来週の社内コンペ参戦すっから」
「え、だって入社したばっかなのに」
「関係ねっす。そういや籾山サンの過去の採用企画見せてもらった」
「そーなんだ。どうだった?」
「これなら勝てると思った」
「え?」
「聞こえたっしょ」
 香枝は数秒の絶句のあと「すごいこと言うね」と言った。
「でもホントのことしか言わない。再来週の結果見りゃわかるよ」
「へえ、じゃ楽しみにしてるから」
 香枝の表情が硬質なものに変わる。強い視線で直己を射ると早足でそばを離れた。
その二週間後、直己は社内コンペの採用を勝ち取り、それ以降は負け知らずの驀進が続いた。各企画はふるいにかけられ、正式にプレゼンできるのは二、三人だが、香枝はいつも最終メンバーに残っては直己に負けた。
「籾山、顔やつれてんなあ。徹夜したんじゃね?」
 直己は悔しさを押し隠している横顔に笑って話しかける。彼女は答えない。
「徹夜するほどのモンでもねっか。小手先で作った感じだもんな」
「小手先でなんか作ってない。余計なお世話」
「ま、企画力はともかく、お前って根性だけはスゲーよ」
 香枝の色白の頬が色づき、彫刻的な輪郭の眼を引き絞った一瞥を投げてよこす。
「うるさい。お前って呼ぶなって言ってんじゃん」
 それ以上は言い返さず、ショートボブの髪をさっと振って歩き出す。香枝は直己に対してはいつも防御と敵愾心のシールドを被る。
 もっと怒らせてやれ。無視されるよりマシだ。
 好きな女子を苛め倒したガキの頃と変わらない精神構造のせいで、二人の関係は悪化の一途を辿った。だがわずか一週間足らずでそれは覆された。火曜日に勢いでキス、金曜日に誘惑してセックス、月曜日から交際開始。それが自分の手柄なのか、あるいは神の御業が働いたのか、直己はいまだにわからない。

 夜十時、ほとんど無人のフロアに彼女の笑い声が響いた。誰かと雑談を交わしている。直己はパーテーションに囲まれたデスクのパソコンで四半期の売上分析を見ている。倉庫で交わした約束の時間まであと十分だというのに、香枝は何を呑気に笑っているのか。
「明日来てよ。やっぱ籾山ちゃんがいねーと盛り上がんないし」
「やー悪いけど野球部の応援とか無理無理。土曜は死んだよーに眠る日なんだもん」
「そんなこと言ってデートじゃないのぉ?」
「あはは、違うから」
「否定に力がないとこが怪しい」
 名前はド忘れしたがこの声は営業部の男だ・・と直己は考えながら印刷アイコンをクリックした。近くのプリンターまで歩くと、香枝と男がいるのはやはりそこだった。
「うす。横浜のリテールの売上、めっちゃいい線いってんねー」
 笑顔で男に話しかけると、男は相好を崩して誇らしげな表情になった。
「でしょ。俺の担当なんすよ。なーんて自慢したりして」
「うん知ってる。来週あたり横浜に見学行こうかと思ってた」
「じゃ俺宇田川さんに同行しますよ。早速ですけど月曜とかどうすか」
「メールして。週末もチェックしてっから」
 こっちが名前を忘れていても向こうは当然のように知っていて丁寧語を使う。たぶん自分は有名なのだろうと特に感慨もなく思う。香枝は涼しい顔で黙っている。
(仕事は終わったのかよ? 終わったんならメールくらいしたらどーなんだよ)
直己は印刷物を取り上げ「じゃ」と笑顔で背を向けた。デスクに戻ったのと同時に、香枝と男の笑い声がまた聞こえた。胸の中が熱くなり、額がすっと冷たくなった。
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